TOP絵更新です。
譲くんお誕生日おめでとうございます!
Twitterと支部では誕生日にUPしたのですが、HPは遅れての更新になってしまいました。
そのお詫びというわけではないですが、久しぶりにSS書いてみました。
★★★
ss「くちなし」
甘すぎる砂糖を舐めた時のように喉の奥がひりつく。
全て飲み込んでしまえばきっと、この痛みもいつかは――
「うわあ」
隣の、今までより更に小さく感じる彼女は、その特徴でもある大きな瞳を更に丸くしながら大きな声をあげた。
「すごい!喋ってみて!ねっ、もっと!」
「……先輩」
「譲くん、また声が低くなった!最近、急に男の人になっちゃった感じがする」
「元から男です!……そんなに変わりましたか?」
「うん。かっこいいよ!」
にこっ、と笑う花のような顔に目が釘付けになる。
衝動をぐっと我慢して、俺もにこりと笑って見せる。
「ありがとうございます。先輩は何だか小さくなりましたね。可愛らしいです」
「あっ!ひどい!譲くんが大きくなりすぎだってば」
「はは、変わったのはお互い様ってことですよ」
高校一年の初夏が来た。先輩と同じ学校へ通う権利を得て、喜びの入学からあっという間に日々は過ぎ、ようやくほっと一息ついた時、俺の体格も声も夏に向かう新緑のように自分でも驚くほどの変化を見せ始めていた。
先輩はそんな俺を眩しそうに見つめて、にこにこと笑う。
背が伸びた、顔つきが変わった、声が低くなった……
先輩の瞳に映る俺の変化を聞きたくて仕方がないけれど、学年が違うからそうそう毎日も逢えないのが辛い。
「っ、げほっ」
急に吹き付けた甘い風に喉がむせる。
「大丈夫?」
「大丈夫です……なんだか甘い匂いがしますね」
「あ、それきっと、あの花」
先輩が指さした先を見れば、白い花が今を盛りと咲き誇っていた。
「くちなしの花!」
花の名を得意気に教える様が可愛らしくて思わず微笑んでしまう。
「くちなしというと、実になった方しか思いつかないですけど、こんな花だったんですね」
「くちなしの実?」
「そうです。黄色が綺麗に出るので、栗きんとんを作る時一緒に煮て使うんですよ」
「そうなんだ。譲くん料理上手だもんね!この間のプリンも美味しかったよ。すごいなあ」
「いや……それほどでもないですよ」
ちょっと照れて、話を逸らす。
「というか、先輩が花の名前に詳しいのが意外でしたけど」
「あっひどい!」
ぷう、と膨れたかと思えば、すぐにぺろっと舌を出して笑う。
「なんてね。実は私も聞きかじりなんだ」
ああ、本当にこの人のくるくる変わる表情はなんて可愛らしいんだろう…
そんな思いは次の言葉で水をかけられたように冷たくなった。
「去年、将臣くんに教えてもらったんだよ!」
――兄とも同じ学校だというのが俺の最大の不幸である。
「やっぱりこうやって一緒に歩いていて、すごい甘い匂いだねって話した時に。
将臣くんていい加減に見えるのに、何でも人並み以上に知ってるのすごいよね。
譲くんも中学校の頃はもっと可愛い感じだったのに、将臣くんみたい。
やっぱり兄弟って似るものなんだね。あっ、でも、将臣くんみたいにサボり癖まで似たら駄目だからね!
ふふっ。この間なんかね将臣くんったら…」
花の顔で、楽し気に兄の武勇伝を聞かされるというのは一体何の罰ゲームなのか。
「将臣くん」と先輩が名を呼ぶときの、甘い声。喉の奥が、胸がざらつく。
確かに彼女が言う通り俺達は似ているのだろう。
それは外見だけでなく、きっと――
「…せん、ぱい」
大人と子供の声が混ざった雑音がする。
甘すぎる程の甘い匂いと緑の葉を揺らす風。
言の葉、という文字がちらりと脳裏をよぎる。葉が紡ぎすぎるのを止めるための甘い花なのか。
「え?」
にこっと笑って先輩が俺を見上げる。
この笑顔を、この人を自分だけの物にできたら――
そんな思いを咎めるかのように、と喉が焼ける。
「――、」
「えっ、何て?譲くん?ごめん、聞こえにくい」
「……げほっ」
「大丈夫?」
見上げる心配そうな瞳に恋愛の色など探しても無駄なのは分かっている。俺は、ただ隣に住む弟のような存在。
それだけでは嫌だと心は告げたがっている。けれど……
「……花の匂いに、むせたようです」
「ああ、じゃあ早く離れよう。綺麗だけど、ちょっと匂いがきついもんね?」
ぱっと身体を翻して駆けてゆく軽やかな後姿。
俺は喉に手を当てる。
この思いを全て飲み込んだら。もしくは吐き出せたら。
この痛みは消えるのだろうか……
★★★
「馬鹿じゃね?」
将臣がリビングであきれたように口を開いた。
栗きんとんをつつきながらもう一回将臣が言った。
「ほんと賢いくせに馬鹿だな」
「馬鹿で悪かったな」
思い出話を否定されて、譲がむっとして言い返す。
正月ももう終わったが、作りすぎた栗きんとんを食卓に出した時にふと、くちなしの連想から思い出して話してしまったのが運の尽きであった。
「くちなし、で黙っておけるような柄かよ。まあ、お前の事だから色々考えすぎてたんだろうけど。はっきり言って、あの頃からバレバレだから」
「どうせ俺は嘘が下手だよ」
「まあ、そう不貞腐れるな。俺だって諦めたいわけじゃねえ」
「兄さん」
「んな顔すんな。俺らが決めることじゃねえって。望美がお前がいいって言ってんだからいいじゃねえか」
「ごめん……」
すまなそうに俯く弟は、それでもどこか誇らしげで憎たらしくもあるが、このまま虐めても望美に怒られるだけだしな、と将臣は苦笑する
「あのな、お前の想いは「くちなし」だから叶ったんだろうが」
「言えなくて不甲斐ないって?」
「違う。分かってねーな」
にやっと将臣が笑って弟の耳元に口を寄せた。
「お前の想いは「くちなし」ってな」
「??」
「…お前の変わらぬ想いとやらは「朽ち、なし」だろ?」
ぽかん、とした後の譲の表情は見ものだったという。
その後、リビングで抱き合う兄弟を見かけた面々が色々な噂を垂れ流したのは仕方がない事であった。
★★★
いかがでしょう?
おまけ話は迷宮エンドの後くらいと思ってください。
普通の譲望と思って書き始めたのにどうしても有川兄弟になってしまう…(苦笑)
差分の頬染譲くんも落としておきます。
可愛い弟から、大人になるちょっと前と思ってください。
譲くん大好きだ!